自立援助ホーム「トリノス」を訪ねて

一昨日お邪魔した自立援助ホーム「トリノス」
その案内には次のようにあります。

『なんらかの事情により、義務教育を終えた後に働かざるを得なくなった20歳までの青少年達を対象に、安心・安全を守られた住居で、働くことの大切や生活の楽しみ方を職員と一緒に探していくところです。
児童福祉法6条の3、児童福祉法第33条の6「児童自立生活援助事業」として第2種社会福祉事業に位置づけられます。』
IMG_20181128_160523

IMG_20181128_171626
多摩モノレールの万願寺駅から歩くこと5分少し。住宅街の中のやや大きめの一軒家が、目指す「トリノス」で、施設長の渡辺さんが日野市議の島谷ひろのりさんと私を出迎えてくださいました。ほどなく立川市議のわたなべ忠司さんも合流。
「わざわざ来ていただきましたけれど、5分か10分もあれば説明終わってしまうかもしれません」と渡辺施設長さんはおっしゃいましたが、午後4時から1時間という約束を遥かに超えて、御礼を言って現地を後にした頃には6時近くになっていました。

自立援助ホームは、現在全国に161か所、都内には18か所あり、様々な主体が運営しているそうで、トリノスの母体である社会福祉法人二葉保育園さんとしてはココ1か所。開設から3年目で、定員6人の男子のホームです。
職員さんは4人。交代制で24時間、誰かが必ずいて、日常生活上の援助や生活指導を行って、社会的自立をサポートしています。
若者たちは、まさに様々な事情やルートでトリノスへ来て、6つある個室で生活を始めることになります。家庭的なものにより近づけようと様々な努力をされていて、食事も職員が方がフードバンクなどのサポートも活かしながら手作りして1階のリビングで提供するスタイル。とはいえ、在籍期間は1年~長くても2年程度で、自分で望んで来たとは言い難いものがあり、夜勤の仕事の青年もいるので、みんな一緒にワイワイ…とはなかなかならないそうです。

お話を聞く前は、幼い頃から児童養護施設で集団生活をしていた子たちが、自立へ向けた次のステップとして利用する場所なのだと思っていましたが、実態はそうではありませんでした。
児童養護施設等に出会うことなく、15歳を過ぎるまで家庭の中にいて虐待に遭っていたり、学校に殆ど行けないまま自宅に引きこもっていたり、外国から親と来日したけれどなじめずに行き場を失っていたり…といった様々な事情を抱えた子どもたちが、何らかのルートで児童相談所と接点ができ、そこから勧められてドアを叩きます。

自立援助ホームとは、制度上は就労自立を目指す施設であり、働くことを前提にしたものですが、働きたくて来たというよりは、自分の家からとにかく避難をしたい一心でココに辿り着いた子どもたち。
「いろいろな福祉のサービスからこぼれ落ちた子たちを拾っている面が強く、実際に求められている役割と定義されていることには乖離があり、制度を変えていかなければ…」「18歳から30歳くらいまでの生活保護にお世話になる前に支援をしてあげられる可能性があるのが自立援助ホーム」「とはいえ、財政上の措置は小さいので、そこまでやれるのか不安に思いながら日々働いている」と渡辺さん。

「トリノスを出て自活を始めた若者が、うまくいかずに戻ってくることはないのですか?」と尋ねると「もちろんありますよ」とのこと。
だからといって、「失敗する前からあれこれお膳立てはしない」とも。

「抑圧された生活の中で、自分のことを自分で決めることが許されずに育ってきたので、決めること、考えることが苦手な子が多いのです。それが成功でも失敗でも、自分で選択した結果であれば行動修正が効きやすいので、基本的にはやりたいということはやらせてみて、一緒に考えるようにしています」と。

「ここにいる間に何とかしてやりたいけれど、それは難しいことなのだと思うようになりました。大事なことは、つながり続けること。むしろ、出て行ったあとが勝負で、それは何か月先か、何年か先か、もしかしたら何十年先かもしれない。でもその時に、頼れる場所であり続けることが使命なのだと思う。」
「あの年齢はプライドもあり、子どもたちのように救い上げるというやり方は難しい。一人ひとりを尊重しながら、必要とされた時に手助けできる位置に居続けたい。」
「日本人は、小さくて可愛いものだと、守ろう、助けようとなるけれど、その後15年くらい経ってここで生活しているような、可愛いという歳ではなくなった子どもたちにも、支援は必要です。全国で9万人いると言われる、ひきこもっている青年たちに手を差し伸べることは、世の中全体に返ってくると思います」

国は「新しい社会的養育ビジョン」を掲げ、脱施設化を打ち出しています。確かに現実を踏まえれば必要なことであり、ここにきて里親制度の急速な拡充を進めていますし、それがプラスに働く面も多々あると思います。
一方で、中には、虐待を受けてある時期まで育ってきた子が抱える心の傷を里親が十分理解できずに「里親不調」となるケース、新たな虐待に発展するケース、思春期を迎える頃に思い描いていた「わが子像」とのズレが大きくなってお手上げになるケースも少なくないと聞きます。自立援助ホームが里親不調の受け皿になるのでは…という話もあるそうで、里親への支援策が身近な自治体でも求められていると思います。

本当に様々な課題を知り、考えることになった今回の視察でした。
お忙しい中ご対応くださったトリノスの渡辺さん、パパになったばかりなのに月10泊はトリノスの宿直をしていると笑顔で語ってくださった若い職員さん、どうもありがとうございました。

コメントは受け付けていません。